イート•ザ•ワールド

ワセジョのカフェ店長は世界のご飯を食べてみたい

深夜のパフェ考:エロティックなパフェについて

f:id:ikiruyotokyo:20160425160442j:plain

 

 

デニーズでパフェを食べた。
30センチはありそうなパフェだった。
鮮やかなクリームの地層がいくつにも重なりあい、飲み物を入れるには大きすぎるパフェグラスに収まっていた。


その上にうずたかく噴射されたホイップクリーム、ぬらめくミルクプリン、バニラアイスクリーム、マンゴーソルベ、飾りのベリーと大ぶりの果肉が狭い地面の上でおしくらまんじゅうしていた。

囲うものも何も無い、崖っぷちの状況であまりに多くの具材が器用にアレンジされた魅惑のビジュアルに、デニーズの店員さんたちはさぞハラハラすることだろう。そしてその商品を届けられた私たち客は、あるいは好奇の目で、あるいはときめきを孕んだ熱いまなざしで見つめ、歓喜する。

 

しかしそれも束の間、アイスクリームが溶けてグラスを垂れ落ちる前に私たちは長いスプーンでクリームをぐちゃぐちゃに崩しにかかる。

パフェグラスの奥まで届く銀のスプーンの先でクリームを小さく削り、唇へと運ぶ。

 

魅惑のビジュアルもなんのその、たちまち溶けたもの同士が混ざりあい、秩序は失われ、ある種のカオスが生まれる。鮮やかな個がくんずほぐれつ絡み合い、溶け合い、独立性は失われ、クリームやらムースにまみれて器の上、ないし中でよくわからない状態となって埋没する。

 

一言にパフェといってもムース、クリーム、プリン、コーンフレーク、果物など、その構成物は当初それぞれに名前を持って登場する。しかし彼らはその役割を果たす時、すなわち口に運ばれる時はすっかり「パフェ」になってしまう。

1つの器にあらゆる個性が詰め込まれ、境界線や秩序を排され、個性を没せられたものたちが混ざりあったカオス。それこそパフェという食べ物だ。

 

パフェ自体ではなく、パフェを食べる行為にしたってそうだ。

魅力的な外見のものにスプーンを差し込み、ぐちゃぐちゃにする。着飾った要素を混ぜて、1つのあられもない姿に還元する。それがパフェの様式であり作法だとすれば、なにやら性的な匂いを感じ取ることができないだろうか。

 

どろどろになったクリームやふやけたコーンフレークを口に運ぶことが、綺麗な図だとは言いがたい。

銀のスプーンの柄にまでこびりつく生クリーム、スプーンの背をしたたるソルベにムースに沈む謎の固形物、混じりあった複数の色。それらは唇を汚し、時に指先に付着する。

舌先で溶ける快楽に甘みという快楽。粘り気のあるクリームを嚥下し続けるという行為。グラスが纏う水滴を、口元や指先についたクリームを、拭きとり散乱する紙ナプキン。

 

独立した個がスプーンという棒によってかき混ぜられ、溶け合い、一体化するというパフェの構造だけではない。実際に人の口に運ばれる時に至っても、他の食べ物よりもエロティックな側面を多く持ってはいないだろうか。

 

 

 というわけで、今度のパフェのお供はバタイユとか読もうと思う。